4. サイクリックボルタンメトリ

ここでは三角波掃引を用いるサイクリックボルタンメトリ (Cyclic voltammetry, CV) を扱う.
オシロスコープは,XYレコーダモードで使用する.


スクリプトによる掃引条件の設定

WaveForms の任意関数発生機能 Wavegen には基本的な制御波形がプリセットされている.CV では三角波を用いればよいのだが,波形パラメータは CV 用の設定パラメータとは異なっており,適当な変換が作業が必要になる.パラメータ変換の計算自体は難解なものではないが,変換計算を行って Wavegen に設定値を書き込む作業が面倒である.なお,変換の基本原理は,別ページに説明があるので,参照されたい.
そこで,より設定を簡単に行うため,設定用のスクリプトを含む,基本設定ファイル (Workspace) を用意した.あらかじめ適当な場所に保存しておく.Analog Discovery とポテンショスタットの接続は Fig. 2.4 (A) のようになる (Ch1 を電位軸に割り当て).
Fig. 2.4 (B) の接続の場合は,この Workspace ファイルにおいて Oscilloscope の XY 画面の設定で Ch2 が X軸になるように変更するか,こちらの統合版 Workspace ファイルを用いる (CV 以外の機能も入れているが,CVについての設定のしかたは以下とほぼ同じ).

いずれも初回は Settings -> Device Manager から使用するデバイスを自機に切り替え,そのファイルを保存しておく (Workspace -> Save).

  • Script の冒頭部分 (赤枠で囲った部分) がパラメータ設定になっているので,測定条件に合わせて変更する.
    • SweepRate 掃引速度を V/s 単位で設定
    • StartPotential 掃引開始電位を V 単位で設定
    • UpperVertexPotential 上側折り返し電位を V 単位で設定
    • LowerVertexPotential 下側折り返し電位を V 単位で設定
    • InitialDirection 掃引開始時の掃引方向を指定.アノード方向 (電位上昇方向)のときは 1,カソード方向 (電位下降方向) のときは -1 を指定
  • (Script タブの) Runボタンをクリックすると Wavegen にパラメータが設定される.
  • 測定条件を変更するときは,変更箇所の数値を書き換え,(Script タブの) Runボタンをクリックする.
  • 問題がなければ Output ペインに "Ok. The wave pattern has been properly set." と表示される.
  • Wavegen ペイン (またはタブ) で波形を確認する.

Fig. 4.1 掃引条件設定スクリプトとパラメータ修正


記録画面の設定

A/D 変換の分解能を考慮したポテンショスタット側の電流感度の設定が重要である.基本的には可能な限り高い電流感度の設定で測定することが望ましい.
Oscilloscope タブ (あるいはペイン) に移動する.以下,Fig. 4.2 (右図) を参照.

XY 軸の設定の確認
  • Ch1/2 の接続割り当てが Workspace ファイルの設定に合ったものになっていることを確認する.
時間軸の設定
  • 掃引速度,掃引範囲,サイクル数をもとに,全測定時間 tm を概算する.
  • Time 設定の Base を tm/10 より大きな値にする.
    • たとえば1周期に 10 s かかり,5周期分の測定を行うなら (tm = 50 s,tm/10 = 5), 5 s/div 以上が必要なので,たとえば 12 s/div を選択する.
    • このとき,Base/800 が,記録時の時間分解能になる.5 s/div なら 6.25 ms ごとにサンプリングされる.データの最大点数は8000点.
電位軸の設定
  • Range と Offset で,測定したい電位範囲が画面の表示範囲に入るように設定.
    • 下側折り返し電位 -0.20 V,上側折り返し電位 +0.50 V の場合,Offset -100 mV,Range 100 mV/div など.
    • この設定は記録の精度には影響しないので,測定時の見やすさだけで決めてよい.
電流軸の設定
  • ポテンショスタットの電流感度とセットで決める必要がある.
    • アナログポテンショスタットは,電流のフルスケール (FS) を 1 V または 10 V で出力するものが多い.
    • どちらのタイプかは説明書で確認しておくこと.
  • ポテンショスタットは電流のオーバーロードが発生しない範囲で最高の感度にするのが基本.
  • 1 V FS のポテンショスタットの場合,200 mV/div (または 500 mV/div) に設定する.
  • 10 V FS のポテンショスタットの場合,2 V/div (または 5 V/div) に設定する.




Fig. 4.2オシロスコープの設定


測定


測定データの保存

オシロスコープ画面で,File > Export,現れた画面で [Save to Clipbord] ボタンをクリック.
計測データがクリップボードに取り込まれたので,Excel 等を開いて貼り付ける (編集 > 貼り付け や Ctrl+V など).
重要:このとき,ポテンショスタットの電流感度の値を記録に加えること.
オシロスコープでの記録は,原則として電圧情報である.アナログポテンショスタットの電流出力端子は,流れた電流に比例する電圧を出力し,オシロスコープではそれを (時間の関数として) 記録している.この変換係数がポテンショスタットの電流感度の設定で決まる.たとえば,1 V FS のポテンショスタットで 1 mA の感度設定にした場合,変換係数は 1 mA/V になる.したがって,Ch2 の記録電圧値にこの値をかけると電流の大きさになる.この例では 0.10 V と記録されていた場合は,0.10 mA 流れていたということになる.


測定例

Mov. 4.1 に実際に測定しているときの様子を動画で示す.

Mov. 4.1 サイクリックボルタンメトリ測定中の様子.



掃引速度を変えて測定した結果をまとめた例を Fig. 4.4 (右図) に示す.
(作用極 ITO,約 1 cm2)
Fig. 4.4 CVの測定例

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